第1回:虚淵 玄(シリーズ構成・脚本)

見知らぬ世界へ、チェインバーと流れ着いた少年レド。新たな世界で、一体どんな未知との出会いが彼を待ち受けているのだろうか?

そんな主人公レドを演じる石川界人くんも、声優として新たに漕ぎ出したばかり。

石川界人くんが臨むアニメの制作には、声優の他にも、アニメーター、脚本家、プロデューサー……など沢山の方々が働いております。
一体どんな人たちなの?どんなお仕事をしているの?
まだまだ、知らない事だらけ。

……そうだ。レドと同じように未知の仕事と出会いに行こう!

ということで、制作に関わる様々なガルガンティア制作団(スタッフ一同)の人たちを、プロダクションI.Gの平澤Pの案内で、石川界人くんが訪ねていきます。

● 脚本家はどんなお仕事?

虚淵よろしくお願いします。
石川よろしくお願いします。・・・あ、どうも石川界人です!(笑)。
平澤律義だな(笑)。
虚淵ラジオじゃないですから(笑)。
石川まず虚淵さんがやられている仕事は、どんなお仕事なのかをお聞きします。
虚淵まあ脚本家なんですけど。今回割と企画の立ち上げからずっと立ち会ってる脚本家なんで、ちょっと普通の脚本家のポジションとは違うかもしれませんね。もしかしたらシリーズ構成の立場でも「どんな話をやりましょう」のところから絡むってそうそう無いかもしれないですよね。そもそも平澤さんにお話をもらった時点で、どんなアニメっていう枠すらなかったですもんね。ロボットは出そうとか、18、19歳から20歳前半あたりの、高卒、大学ぐらいの年代層に向けて作ろうぐらいの枠しかなくて。彼らの一番の関心事ってなんだろうって考えたら、今の時代だと就職じゃねっていう話に落ち着いて。社会に出るのは怖くない、みたいな話を作ろうみたいなところから始まったんですよね、確か。
石川希望の持てる話をってことですね。
虚淵ええ。
石川なるほど。僕と同じ世代なので、まわりにも高校を出て社会人になったり、大学に進んでこれから就活って人もいて、そういう人たちが見て元気づけられる作品を、ということですね。
虚淵そうですね。就活そのものもあるし、社会人1年生のような学生じゃないポジションに踏み込んだ時点で、戸惑ってるような人たち向けの話を作れるといいなぁというところから、プロットを考えましたね。
石川村田さんやほかの方もいらっしゃいますが、虚淵さんが中心になってお話を構成したんですか?
虚淵そうですね。こんな話にしようからおっぱじめるっていう機会はそうそう無いんじゃないかな。大抵シリーズ構成の段階で「こういう話をお願いします」ってのから始まるので。ガルガンティアは、さらにその手前から関わった企画ではありますね。
石川そうなんですね!じゃあ、虚淵さんはシリーズ構成だけというわけでは無いんですね。
平澤村田監督、虚淵さんは原案というところでもお名前が載ってます。
石川あ、そうか、原案っていうのがあるんですね。

● 執筆のお仕事開始!

石川立ち上げ段階から虚淵さんはこのガルガンティアという作品に関わってきたという事ですが、シナリオの執筆を始めたのは始まってどれくらいの時期ですか?
虚淵結構経ってからですよね、あれ。
平澤ですね。
虚淵まず村田さんが加わるまでの紆余曲折もあったし、加わってからガラッと内容が一旦変わっているんですよ。異世界ものだったのが、地球が舞台の話に切り替わって、巨大船団の廃虚感を活かそうって話が持ち上がって。それで、まず13話分のシリーズ構成にゴーサインが出て、その時点で脚本家の割り振りも決めました。それから自分はシリーズ構成なんで、1話と最後は締めましょうって形で、1話と13話の脚本を。まずは1話をほかのライターさんへの手掛かりというか、1話のテイストをほかの人に見てもらってこの次書いてくださいってお願いできるように。やっぱりシリーズ構成は1話は書かなきゃしょうがないですよね。
石川ということは、最後も虚淵さんが担当してらっしゃるんですか?
虚淵そうですね。なんなんですかね、これ伝統ですかね?
平澤伝統ですね。シリーズ構成さんっていわゆるシナリオライターさん達のチームのトップなので。このシリーズをどういう話にするか、それぞれの話をどういうふうに起承転結付けるかについて指針を与えてくれる人っていう感じなんです。最初と最後というのは、最も重要なエピソードでもあるわけです。だからシリーズ構成さんが書かれること、そして監督ご自身が演出なさることが非常に多いですね。
虚淵ですよね。

● お仕事で苦労することって?

石川えっとじゃあ……どうしようどうしようってなっちゃうな。インタビューって初めての経験なのでいっぱいいっぱいです。では……。シリーズ構成ということで、2話から12話の脚本にも深く関わってらっしゃると思うのですが、展開を決めていくにあたって、苦労したことはありますか?ロボット、ボーイミーツガール、海洋ものとモチーフが豊富ですが。
虚淵割と今回はシリーズ構成がすんなりゴーサインが出たんで、さほどの苦労はなかったですね。
石川普段は苦労しますか?
虚淵ものによりますね。
石川今回は結構すんなりって感じが?
平澤村田さんが参加する前に、半年以上の歴史があるんです。どんな話、世界観、どういうお客さんに届くように作っていこうって話をずっと練ってて、決まったことに対して虚淵さんがじゃあこういうのどうでしょうって、ちょっとずつねじを締めるように、それぞれの要素を決め、組み合わせていく。そうやって企画が固まっていった中で、監督を村田監督にお願いすることになって、村田さんが「実は私、こういうのやりたいって思ってました」って、海に浮かぶ船団都市のアイデアをドーンって出されて。これは面白いな、けどどうやって混ぜようと思ったら虚淵さんがあっという間にそれを混ぜてくださって。「これはいける!」ってP同士言い合ってたら、監督ご自身も「すばらしいです」って話になって、割とあっという間に軸が完成したんです。
石川すごい……。
虚淵そうですね。
石川今まで作り上げてたものを、こっちのアイデアもいいなって切り替えるのは結構簡単ではないと思うのですが、すぐにこれじゃないってことにできるんですね。
虚淵まあ……ケースバイケースですよね。今回はたまたまうまく路線変更できたというか、スイッチングがきれいに決まった感じでしたね。
石川じゃあ結構特殊なんですね、ガルカンティアは。
虚淵ただ鍵になったのと言えば、村田さんの巨大船団のイメージがホントに明確だったってのはありますよね。
石川そうですよね。すごく世界観が練り込まれてて。

● 自分は軍師

虚淵今回あらゆる進行がひたすらスムーズだったんですね。ひとえに言いますと村田さんのジャッジが明確なんですよ。
石川これは違う、これは合ってる、と。
虚淵これはいける、これはOKって。迷った時はこっちいこうっていう舵取りが本当に的確で迷いがなかったんで。そこは非常にやりやすかったですね。
石川なるほど。
虚淵その時々で、村田さんが何を求めているモノをいつも明確にしてくれる人だったんで。それはもう、求められるものを提出していけば転がるよね。
石川舵取りがしっかりしていれば安心ってことですよね。
虚淵ですね。ここで迷っちゃう人だと大変なもんになってくるんですよ。誰もが迷子になっていくって(笑)。
石川作品がどんどん迷走して行ってしまうんですね。僕としても、わからない事はすべて監督に聞けばこの世界のことはなんでもわかるので、迷う事なくきちんとキャラクターの事も世界観も理解できたと思います。
虚淵そうですね。困った時はもう村田さんに聞けばいいって感じに出来上がっていたんで。
石川虚淵さんに聞いたほうがいい、ってことは何かあります?
虚淵村田さんから相談されることは、あるにはあったんですけど、それってのはアイデア出しですよね。
石川アイデア出し?
虚淵ライターのポジションって軍師に近いんです。作戦立案というか。将軍のやることは戦に勝つことじゃないですか。「こんな地形でこんな兵力で戦いたい、どんな作戦がある」って聞かれた時にパパッて出せるのが軍師の役目なんで。
石川めちゃくちゃわかりやすい例えだ!
虚淵ただどういうふうに兵隊を動かすかとか、どこでどう戦うかっていう指針は将軍である監督任せなんですよ。逆に言うとどんなケースを突き付けられても、その時その時で最善の策を出せるようにあらゆる状況を考えておけるっていうのがライターの役目かもしれないですね。つまりは軍師。
石川相当頭が回らないと。
虚淵そうですね。ひらめきは要求されるけど、その分、自分で兵隊を動かすことはないし。そもそもの指針っていうんですかね、誰と戦うかとか、ここはこういう戦い方をするべきだとか、ものすごい大局的な部分での判断っていうのはしなくて済むんですよね。そういう一番根幹の意志決定ってのは、ライターの役目じゃないんです。そこさえ明確にしてくれたら最善の方法を考えつけなきゃいけないってのはライターですよね。
石川なるほど。すごいです(笑)。

● ライターとしての秘訣

石川ではですね、虚淵さんは、ガルガンティア以外の作品でも、脚本、シナリオ、小説など、いろいろな執筆をされていると思うのですが、このライターという仕事に就いた経緯を教えていただけたらと思います。何がきっかけになったのでしょうか?
虚淵割と成り行きだったんですよね。一度挫折しているんですよ。
石川そうなんですか?
虚淵ラノベ作家を昔目指してた時期があったんですよ。その頃は投稿書だけで芽が出なくて。じゃあ普通に社会人になろうかっていって入ってみたデザイン会社で、今度新しくエロゲを作るって話になって。
石川ゲームですか?
虚淵ええ。その時に「実は昔小説を書いてました」ってカミングアウトをして、「じゃあシナリオやってみれば」っていう形で始まったんですね。だから一度諦めてほかのところに行ってみたら、そっちで芽が出たっていう不思議な経緯ですね。
石川そんな始まり方もあるんですね。このお仕事の秘訣といいますか、どういうことに気を付けて書いてますか?
虚淵アニメの脚本に限った話と思っていいんですかね?
石川はい。アニメの脚本ということでお願いします。
虚淵何より、やっぱり監督を信じて頼るっていうのが一番大事ですよね。
石川はー、信頼関係!!
虚淵そこは指揮系統とも言えるし。結構その辺アニメは特殊で、やっぱり終わってみれば監督の作品なんですよ。作家として我を通していいポジションというのは1人に絞ったほうがいい。それがまとまりが付く秘訣って気がしているんですよ。だからここはこうしたいっていう一番の権限を、脚本家は監督に譲るべきなんですよね。そういうポジションじゃないぞってのは肝に銘じとかないといけないなって。
石川立場をわきまえつつも信頼関係で成り立っていると。
虚淵何よりも最終目的はすばらしい映像を作るってことであって、脚本ってのは映像の設計図止まりなんですよね。映像そのものでは決して有り得ない。だからベストの映像に持っていくためには、それを見越した上で脚本を書かなきゃいけないって点ですね。だから脚本だけで完成さしちゃいけないんですよね。しょせん脚本なんてのは監督と絵コンテさんが読んで、まあ強いて言えばセリフは声優さんが読んで、そこ止まりなんですよ。小説と違うのはそこですよ。小説はお客さんの目にじかに触れるもんだけども、脚本ってのはお客さんの目に触れないんですよ。

●一緒に仕事をするならどんな人?

石川今、信頼関係っていう言葉が出たんですけど、一緒に仕事をする人間としてどんな人がいいなって思いますか?
虚淵そうですね……やっぱりまず方針が明確であるってのはやりやすさの上で必須だし、気持ちの上で言えば感性が似通ってるというか、こちらが提案したものの良し悪しってものをちゃんと見抜いた上で、さらに活かしてくれる人ってのは一番うれしいですよね。
石川なかなかハードルが高いですね(笑)。
虚淵こちらは策を献上するけども、その策で100人殺せるところを120人殺せる人ってのはありがたいです。
石川もっと活かしてくれる?
虚淵そうですね。
石川なるほど。そうですよね。
平澤もしある日、「ごめんこの子ちょっと面倒見てくれる?」って言われて、弟子みたいな人がきたとすると、どんな人にきてもらえるとうれしいですか?
虚淵やっぱり一番でかいのは好奇心ですかね。好奇心と柔軟さ。下手にしたら自分自身よりも新しいもののほうが好きな人ってのは伸びやすいですよね。
石川自分自身よりも新しいものが好きな人ですか……。
虚淵自分が一番好きな人ってのは伸びづらいですよやっぱり。自分自身にしか興味がないんで。その辺の興味が外に向いてる人は、割と足場が定まっていないようでいて、最初結構迷ったりするんですけど、後々会えば会うだけ学んでいくんで。いろんな状況に触れれば触れるほどいろんなものを拾っていく。だから最終的に何がやりたいかなんて、別にはなっから見えてなくていいんですよ。そんなものは場数を踏んでプロになったあとで考えるのでも全然いいんですよね。
石川最初からこれって決めつけないで、とりあえず色々な事に興味を持って楽しんでいた方が良いんですね。
虚淵そうですね。何より仕事を楽しめるってのは大事なんだけども、楽しむ上で自分が得意なことをして楽しめる人ってのは、結果的にそれしかできないんですよ。だからまず手柄を立てようとか、いいスコアを残そうとかそれを目的に仕事をしに来たところで、本当に楽しむわけにいかないんですよ。その状況そのものを、結果はどうであれ楽しもうってスタンスで臨んでると吸収しますよね。
石川なるほど。それはもういろんな職業にも言えますね。
虚淵そうかもしれませんね。
石川僕はまだ何においても経験が浅いので、色んなことに興味を持って行きたいと思いました。好奇心って大切ですね!すごく納得させられました。
虚淵結果的にどんな作品を書くようになるのかってのは、結構後々になって決まってくることなんですよ。その意味で、さっき言った好奇心ってのがさらに大事なんですね。最終的にどちら方面が得意なライターになるのかっていうのを、最初から決めてかかる必要は全くないわけですよ。自分の得意分野ってのは後々目覚めていけばいいことであって、だから逆に得意分野をはなっから絞って、「これが売りです」って精鋭化して入ってきちゃう人は先行きが厳しいかもしれないですね。
石川たしかに、自分はこれが売りなんですって決めつけちゃうとそこから成長できない気がします。
虚淵ただやっぱ若いうちは焦っちゃうんで、そっちから入りたがる人は多いですよね。
石川すごく共感できます(笑)
虚淵まずは一芸みたいな方向で、焦っちゃう人は結構いるっちゃいるんで。
石川今、とても僕の心に染みました(笑)。

●ところで、ガルガンティアの見所は?

石川すみません。色々脱線してしまいましたが、ガルガンティアの話に戻りたいと思います。シリーズ構成をされている虚淵さんからガルガンティアの見どころを教えていただけたらなって思います。
虚淵シリーズ構成から外れちゃうんだけど、やっぱ絵の密度には圧倒されたってのはありますよね。ストーリーそのものはそんなに盛大にトリッキーに作ったわけではなくて、結構手堅い作りだとは思うんですよ。あくまで直球の娯楽作品として、村田さんがおいしく調理できる素材として提出したので。その調理の成果がすばらしいですよね。もう南国疑似体験ぐらいの勢いの画面作りになってますよ。
石川確かに僕もレドを演じていて結構王道だなって感じていました。トリッキーさは無い気がします。
虚淵王道の成長譚なSFかなっていう気はしてますね。ただ作品全体の売りとして、週1回海風と潮の匂いを嗅ぎに来ていただけるみたいな、そういうすばらしさありますよね。
石川なるほど。
虚淵しかも飛行機でも電車でも行けない場所ですからね。
石川そうですね(笑)。
虚淵本当は存在しない場所なんで。そういう異世界感、世界観そのものを売りにできるアニメってのは今どき珍しい気がしますね。
石川たしかに、そうゆう系統の作品は見ないかもしれません。
虚淵今どき学校行かないとか有り得ないですもんね。
石川そうですね(笑)。学校行かないで15歳から仕事をしてますし。
虚淵学校のない世界ですからね。

●気になる、今回の虚淵色は?

石川ということで、一通り作品と虚淵さんのお仕事のことをきいてきたわけですが、ここからは完全に僕の個人的な質問をさせていただきます。おそらく視聴者さんがかなり気になっていることだと思います。今回は、「黒淵」さんですか、「白淵」さんですか?
虚淵自分的には白淵のつもりなんだけど、ちょっと自信がないっすね。「ダークグレー淵」ぐらいで出してみたら、「真っ黒黒淵」みたいな言われ方されることが結構あるんで。「白淵」だって言っておいても、もしかしたら「ニュートラルグレー淵」ぐらいの感じかもしれない。それはでもお客さんが判断するとこなんで、自己申告してもしょうがないとこなのかもなって気はします。
石川そうですね。じゃあ、例えるとしたら……
虚淵白い恋人ブラックぐらいな感じだと。
石川白いブラックサンダー的な(笑)。

●最後に、これだけは聞いておきたい!

石川最後に僕が個人的にも気になっていることなのですが、毎回アフレコにいらしてくださるので、アフレコを見た感想なんていただけたらなって。
平澤おー、冒険するな。
石川現場全体の印象を教えて頂けたら。僕のことはいいです、怖いんで(笑)。
虚淵アニメには何度か関わって、もうそろそろペーペーって感じではない本数こなしたって気はしているんだけど、毎回声優さんの現場には恵まれているんですよね。音響さんがほんとに演技派の方々を揃えてくれて、ちゃんと掘り下げた演技をしてくださる方ばっかりなんで。今回もその例に漏れず、ほんとにすばらしい現場にしてもらえて。実は収録の立ち会いってライターの仕事じゃないんですよね。でも、実際行ってみれば結構やることがあるんで、お邪魔させてもらっているんですけど(笑)。あとは今回、現場で柔軟にいろいろ動いたってのはありますよね。流れ作業の最後の工程って形でやっちゃうというよりも、割と収録の現場で出た新しいアイデアを採用してもらえたりとか、そういったサプライズでクオリティーアップしていったことも多々あったんで、大変やりがいがある現場でありがたかったですね。
石川なんか、ありがとうございます。俺が言っていいのかなって思っているのですが(笑)、僕にとってもスタッフ、キャストの皆さんからすごく良くして頂いた現場なので、そう言って頂けると嬉しいです。ありがとうございました。
平澤はい。ありがとうございました。