● どこまでがメカ?
石川では早速……。あ、どうも石川界人です(笑)。石渡さんはメカデザインということで、メカデザインというのは主にどんなことをやられているんでしょう?
石渡えっとそうですね……(笑)。
石川その名の通りになっちゃいますが、メカのデザインをされてるという事でしょうか?
石渡そういうことですよね。
平澤メカにしても、乗り物もあれば小物もあるし。弊社の作品ですと「PSYCHO-PASS」という作品で、鉄砲のデザインもやってくださってるんですよ。しゃべる鉄砲がいまして(笑)
石川そういう細かい部分も含めて全部メカということで?
石渡そうです。機械的なものです。
平澤逆に、例えばお部屋の中のテーブルとかは普段はやられていないですか?
石渡そうですね。そういうのはデザインはしないです。
平澤ロボットは間違いない、車とかも間違いない、小さくなってくると手に持つ鉄砲ぐらいもやる。その辺ですか、ご自身のお仕事としてデザインする範囲は?
石渡何かしらギミックが含まれてるモノってことなんじゃないですかね、たぶん。可動部分があるというか。
石川そうすると、都市とかも含まれますか?
石渡それもあり得ますね。テーブルだって形が変わるとかだったら、あり得るかもしれないですね。
● リアル?ファンタジー?
石川ギミックのあるものをデザインする時は、物理的なことや実際に立体物を作った場合に動きがちゃんと成立するかなどを考えながらしているんですか?
石渡作品によります。その作品の中で、どの程度リアルにするのかの落とし所がどこなのかなって探りながらですね。
平澤作品毎に大事にしなくちゃいけないことの一つに、現実からどのぐらい離れているかっていう、いわば「ファンタジー度合」があるんですね。例えば多くのロボットアニメだと、関節とかはちゃんと破綻なく動くよう思えるけれども、作られてる素材の強度とかを考えると、実際に作って稼動させるのは難しいですね、みたいな程度のファンタジー度合。どこを現実と同じように守って、どこを無視しちゃうかっていうのは、作品の方向性を決める上でとっても重要なんですよ。
石川チェインバーとかストライカーをデザインする上で、どういうところに気を付けましたか?
石渡チェインバーとストライカーは、むしろある程度現実からは外して、ファンタジーに寄せたものです。
平澤よりメカっぽく言うと、超技術方向に寄せたっていう感じですよね。
石渡その対比になるのがユンボロイドで、これは現実にある重機を想像できるような動き、形にしてますね。
石川ユンボロイド、ユンボロイド……。これとかすごいですよね。重機らしさを残しつつもきちんとメカになっている。
平澤例えばチェインバーって何の燃料で動いてるか、外見からでは判んないじゃないですか?それがどこに積まれてるかとか突き詰めていくと、超技術度がどんどん下がってく。あとはどういう素材を使っているか、もっと足が太くなきゃいけないとかって言うと、もっと現実的になって来るんです。
● ガルガンティア、デザインはじめ。
石川チェインバーとかのメカデザインが動き出したのは、企画が始まってどれくらいの頃でしたか?
石渡どれくらいでしょう?
平澤企画が始まったのは2010年の7月ぐらいです。
石渡その2カ月後ぐらいだったと思います。
石川早いですね。
平澤ロボットアニメのロボットは、作品の顔なので。その時どんなことやってやろうと思った、とか聞きたいですね、是非とも。
石川平澤さんに助けて貰ってばかりですみません(笑)。
平澤私はこのインタビューでの支援システムですから(笑)。
石川この企画のチェインバー役ということですね(笑)。では、平澤さんのお力をお借りして・・・。その時はどんな事を意識されたんですか?
石渡既存のロボットとはシルエットは変えようかと思ってました。
石川結構丸みを帯びた形になっていますもんね。
石渡シナリオというかプロットいうかを見させてもらった時に、ロボットと言うよりはキャラクターだったので。キャラクターとして視聴者が愛着が湧けるようなデザインとして、ちょっと丸っこい感じにして、少し可愛さを入れたほうがいいかなと。
石川なるほど。この丸みを帯びたフォルムのおかげで、親しみやすさが出てると思います。ストライカーは逆に、丸みの中にトゲトゲしさがあるんですけど、こちらにはどんなコンセプトが?
石渡チェインバーが子供だとしたら、ストライカーは大人なんですよ、イメージが。
石川ロボットの年齢感といいますか、そういったのも決めていらっしゃるんですか?
石渡チェインバーとレドが成長する話じゃないですか。成長する過程の中にチェインバーがいて、成長した先にストライカーがいるので、子供っぽい等身と大人っぽい等身という風にしました。
石川キャラ絵を見せて頂いたのですが、チェインバーは丸みを帯びているのでちょっと子供っぽいなって感じますが、ストライカーは丸みもあるんですけど、すごいシャープな感じになっていて、親しみやすさとはちょっと離れてるような気がします。
石渡そうですね。
● メカデザインとは何か?
石川メカをデザインする上で気を付けることとか、秘訣なんかも教えて頂けたらいいなって思います。
石渡今、自分でもメカデザインとは何かってちょっと考えてるんですけど、大体四つに分けられると思います。ファンタジーなロボとリアルなロボ、乗り物としてのロボとキャラクターとしてのロボがあって、ファンタジーでキャラクターがチェインバー、ユンボロイドが乗り物でリアルなロボ。その四つのどこら辺に入るのかっていうのをまず考えてやります。
石川カテゴリー付けと言いますか分けと言いますか、作品を読み込んだ上でそういうことをしていくのが重要ってことですね。
石渡結局のところ、作品の中においてのロボットは、実物大のほんとに動くロボットを作るわけじゃないので。そこから、どの辺まで飾り付けをするかっていうのがあります。どのセクションに入るロボットだとしても。
石川ガルガンティアだと先ほども言っていた2つのセクションがそれぞれに関わっていると。なるほど。
● アノ作品が、今の仕事に
石川メカデザインとしていろいろ活動されていると思うんですけど、このお仕事に就いた経緯をお話し頂けたらと思います。
石渡経緯?どこから話せば……。
平澤できれば学生から社会人になる切っ掛けのところから。
石川僕も就活と言いますか、OB訪問のつもりでいます(笑)。
石渡なるほど。そうですね……。子供の時からロボットは好きだったんですけど、自分の場合はアニメよりも現実のロボットを作りたかったんですよ。たぶんその切っ掛けは『ロボコップ』だったと思いますけど(笑)。
石川おー。
石渡というか、敵側のED-209ってロボットがいて。
石川あ、あっちの。
石渡あれを見た時に「こういうの作りたいな」って思って、段ボールを切ったり貼ったりして形だけのロボット作っていたんですよ、その時は。機械で手が動いてたりするのをマネて、紐で連動するマジックハンドを作ったりとか色々とゴチャゴチャやってました。そのうちモーターとかも使って、ちゃんとしたロボットを作りたいと思うようになって、ロボット工学とか学びたかったんですけど、遊んでばかりいたんでそんな学もなく。けどロボットに関わりたい、機械を作りたいってずっと意識し続けていたんです。それで求人を探してたら、弊社のサイトに「あなたのデザインしたロボットがおもちゃ化するかもしれない」みたいな……。
石川謳い文句的な。
石渡それを見て、「あ、ここだ」と思って就職したんです。
石川その時に、自分が今までデザインしたロボットとかを小坂社長にお見せしたりとかも?
石渡その時点で自分のオリジナルとしてデザインしたモノは、とても人に見せられない訳のわからないロボットだったんです、ほんとに。自分の中で行き過ぎちゃってたんで。見せるには見せたんですけど、たぶん全く覚えてないと思います(笑)。
平澤入られてからはどうですか、おもちゃのデザインをまず始められて?
石渡でもないんですよね実は(笑)。「おもちゃのデザインがしたくて、ここに希望さしていただきました」と言ったら、「うち、もうやってないよ」みたいなこと言われて(笑)。違うんだーって軽くショックを受けたんですけど、「頑張ればやれる可能性もある。そこら辺は自由だ」みたいなこと言われたんで、だったらやろうと思って入りました。その頃、自分は3Dもやってたんで、しばらくは3Dでモデリングとかの仕事をやってたんですよ。それで弊社の『鬼哭街』っていう作品があって、その時に自分の先輩であるメカデザイナーのNiθさんって方が「石渡くんも、ちょっとやってみたらいいんじゃないか」っておっしゃって、そこから初めてメカデザインとして作品を出すことになったんです。
● メカデザイナーには××な人が?
石川いきなり話が変わりますが、どんな人とならこのメカデザインの仕事を一緒にやりたい、できると思いますか?
平澤「新人連れて来たから面倒見てよ」って言われて、駆け出しのデザイナーが来たとしましょう。そん時にどんな人だと嬉しいかなっていう答えを。
石渡それは人としてですかね?
平澤人としてとか技術としてとか、どちらでも。
石渡人としてだったら、 むしろ、ちょっと駄目なとこがある人がいいんですよね。
石川駄目なところですか?予想外でしたね。
石渡駄目というか、言い方変えれば面白いところがある人。
平澤ある種の歪さでしょうか?
石渡歪さ……そうですね。自分の勝手な思い込みかも知れないですけど、普通だとやっぱり普通なアイデアしか出なさそうなので。どっかおかしなところを持ってる人のほうがその人の生み出すモノの中にも反映されると思うんです。そういうとこに自分は結構グッと来るところがあるんで。
石川個性が強いというか、世間的に見ればちょっと変な人が?
石渡そうですかね。
● 今時珍しいメカデザイン
石川ではガルガンティアにおける見どころですが、折角メカデザイナーさんに聞くので、チェインバーとかユンボロイドとかストライカーとかそういったメカの見どころを教えてもらえたらなと思います。
石渡やっぱり自分としてはチェインバーの成長ですかね。
石川チェインバーの成長?
石渡あと結構自分の中ではチェインバーのデザインって、遊んだ部分というかチャレンジした部分はあるんです。うちの虚淵の脚本で自分がメカデザインを担当する場合は結構思い切ったことをやらせてもらってるんですよ。最終的に脚本を虚淵さんに書いて頂く上で、うまい具合にメカ燃えに持っていってくれるんですよ。そういうのをいろいろ盛り込んだのが、ちゃんと最終話に向けて出てきますので、それを見てもらったら良いんだと思います。
石川なるほど。
平澤さらに突っ込んで聞いていいですか。石渡さんのこれまでデザインと比べて、特にチェインバーで冒険してみたっていうところを、具体的におっしゃって頂ければ。
石渡そうですね、まず頭がでかい部分。結構怖かった部分はありますよね。昔だったら例えばボトムズとかレイズナーとかあったじゃないですか。今やるとしたらちょっと怖いんじゃないかなと。
石川最近は頭ちっちゃいのが主流ですからね。
石渡チェインバーのキャラクターの部分とか、作品のお話的にもそこは取り入れたいなと思ったんです。あと全高的な問題もあって。人が乗る部分っていうのはどうしても考えないといけないので。
石川頭に人が乗るのは僕はあまり見たことがない。最近のコックピットは胸っていうのが僕にとっては当たり前っていうか、かなり固定概念だったんで、頭っていうのビックリしましたね。
平澤頭に乗せようって言いだしたのは、虚淵さんを含む文芸面の開発のメンバーで、それが石渡さんのとこにオーダーとして来たんですよね。「頭に乗るんだ、今回」って言われておーってなったんです。ちょっと頭でっかくせざるを得ないなって。
石渡なんとか最初は小さくしようと思ってたんです頭を。けどそこはでっかくしたほうが面白いなと思ったので。
石川チェインバーって、今の形になるまでどれくらい案が出ているんですか?
石渡案としては、チェインバーは最初にお見せしたものがほぼそのまま。
石川これがそのまま?
石渡そうです。
平澤一発目でこれが出てきて、ウォーっ、やったっていう感じでした。
石川じゃあもう結構何もかもがバツンと?
平澤そこはスルっといきました。
● 気になるロボットのあ・そ・こ
石川チェインバーは僕が今まで見てきたロボットの中でも、とりわけ下半身が大きいと思うんです。そこに対するこだわりとかってありますか?
石渡一言で言うと、自分は太ももが大きなロボットが好きっていう。
石川なるほど。じゃ結構今までも太ももって言いますか、腰回りが大きめのロボットを?
石渡そうですね。腰回りというか足のセクシーさだと思うんですよ、ロボットの。
石川ロボットにセクシーさ?
石渡結局、足って本来いらないもんじゃないですか(笑)。普通に現実的に考えると。
石川そうですね。
平澤飾りですって 言ってた人もいますけどね(笑)。
石渡人の形をしてるってことがまず面白いわけで。そうなった時に足の存在感っていうかセクシーさは重要になってくると思うんです。そん時に自分は、男性的なふくらはぎが膨らんで裾に向かって重心が重くなってるロボットよりも、女性的な腰が太くて足に向かって細くなってるようなシルエットのほうが好きだ!ってことですね。
石川「好きだ」に、めっちゃ力入ってましたね(笑)。じゃこの太ももはそういうことなんですね。僕の解釈では完全に好みの問題だとは思っていなくて、結構機能面的な意味もあるのかなって思ったんです。やっぱり機能も重視してますか?
石渡チェインバーの場合はそうですね。機能というか当初とは違うんですけど、ここに穴が開いてるじゃないですか。本当はここから火を出したらいいかなとかって思って……。
石川前から?
石渡前と後ろから。火ってなるとすごい現実的に寄っちゃうんで、今は違う設定になってますけども。
石川どのような設定に?
石渡取り込むほうになってますね、今は。
石川取り込む?
石渡エネルギーをの取り入れ口ということになってます。
石川チェインバーのエネルギーはどういったものなんですか?
石渡それは……。
石川秘密?
石渡その辺はどうなんでしょう、エネルギー的な……。
平澤チェインバー自体は、先ほど石渡さんがおっしゃったように、「量子インテーク」と呼ばれる穴から空気中の物質を取り入れてエネルギーにしちゃうぐらいの超技術にしました。
石川そうすると宇宙空間では燃料が手に入らない?
平澤手に入ります。
石川あ、入るんですか?
平澤ええ。宇宙空間にもありますんで。
石川なるほど。空間中にある物質を取り込んで動いていると。
平澤ですね。
石川それは無限のエネルギーだ。
平澤そこら辺はこれまで企画性によって逆にデザインが応用された例で、企画の中でチェインバーが宇宙からレドと一緒に飛んで来て、ずーっと生活始めるじゃないですか。もし特定のエネルギーでしか動かないものだと、途中で止まっちゃうはずなんですよ。それだとストーリー上いろいろ問題があるなということもあって。また、仮に地球の燃料で利用するとしても、ロボットって運用のシーン、特に修理のシーン入れた瞬間キャラクターから乗り物に近くなってくるんですね。
石川なるほどー。
平澤そうなっていくと、ちょっとチェインバーのキャラ性がぶれるんじゃないかという判断もあって、いっそこいつは自律で動く人類銀河同盟の技術があってことにして、自分でエネルギーを取り込めるようにしちゃったほうが、むしろ物語として1クールの中で描かなきゃいけないことが1個減るからドラマに集中しやすいし、かえってチェインバーのキャラも立つんじゃないかと。
石川すごい!僕が思っていたよりもいろいろ考え込まれていてびっくりしました。
平澤そうなんですよーっ(笑)。
石川なんかもう完全に勉強しに来てるみたいな感じですね。
平澤界人さんとお客さんが一緒に勉強していくんぐらいで良いじゃないですか。もうちょっと言うんだったら、もし「ガルガンティア」が2クールだったら運用のシーン入れられたかもしれないです。チェインバーの修理をするっていう回があっても、それはそれで愛着が湧いて良かったかもしれないんだけど、1クールしかない以上チェインバーの運用というものにあんまり時間を割けないんですよ。
石川いやもう、デザイン系は本当に疎くて。母親がそっち系の仕事ををしてまして、その才能が受け継がれてれば良かったんですけど。僕はちょっと絵や造形の才能がないと美術の先生に言われてしまって(笑)。
ありがとうございました。